ロンドン訪問記 その7 -番外 映画『空軍大戦略』-

バトル・オブ・ブリテンを戦った英独の機について書いていて映画『空軍大戦略』をあちこちで引き合いに出していたら、映画のほうも気になってメイキング映像も含めて改めて見直してみました。

『空軍大戦略<アルティメット・エディション>』(DVD2枚組)です。

公開は1969年。今ならフルCGで大迫力の映像を作るところですが、この映画のすごいところは飛び回る航空機の殆どが当時の実機であるところ。集められた往年の実機は100機以上。映画製作当時、世界第35位の空軍の誕生といわれたそうです。もうこのような映画は作ることはできないと思うので、その凄さをまとめてみました。以下のネタは『空軍大戦略』のメイキング映像とWikipedia(日本語版、英語版)によりました。

人物

監督は初期の007シリーズ(007ゴールドフィンガー、007ダイヤモンドは永遠に等)でメガホンをとったガイ・ハミルトン。007新作の主役に『キャプテン・マーベル』で腕のいい女性パイロット役を演じたマリア・ランボーが抜擢されたと話題になっていますが、私の世代にとって007の主役といえばショーン・コネリー。

    閑話休題。

俳優陣は、ローレンス・オリビエ、クルト・ユルゲンス、マイケル・ケイン、ロバート・ショウ、スザンナ・ヨーク他錚々たる布陣です。

史実そのものが壮大なドラマなので、映画にはストーリーというほどのものはありませんが、主役といえる人物は空軍大将(Air Chief Marshal)のヒュー・ダウディング。ローレンス・オリビエが癌の治療中である身をおして演じました。

制作当時は終戦からまだ23年後なので、当事者が多く存命の頃です。監督のガイ・ハミルトンはダウディングに実際に会って話を聞いています。また、ダウディングは80歳を超えた高齢にも関わらず車椅子でロケ現場に姿を見せており、自身を演じたローレンス・オリビエと会話している姿が記録されています。

ドイツ側は、空軍中将にして戦闘機隊総監、撃墜機数104機のエースであったアドルフ・ガーランドが協力しています。

バトル・オブ・ブリテンは英国人にとっての誇りともいえる戦い。役者の方からやらせてくれと集まってきたので、配役の面で苦労はなかったといいます。制作側の方針として、主役も端役も同じギャラだったそうです。

実機

この映画には世界中から100機以上の実機が参加しています。英国に現存するスピットファイアやハリケーンがスクラップ同然のものまでかき集められました。集められた航空機のうち、実際に飛べたのはハリケーン2~3機、スピットファイア11~12機。スツーカ1機。多くは博物館で野外展示されていたのを整備し直して飛ばしたので整備はもちろん毎日のように修理する必要があったそうです。

そして圧巻はスペイン空軍から借り受けた50機のハインケルと60機のメッサーシュミット。両機共に当時スペイン空軍で訓練目的などでまだ運用されていたそうです。両方ともオリジナルではなく、スペインでライセンス生産された機体。ハインケルの方は外観上の見分けはつきませんがメッサーシュミットの方は機首の形が明らかに違っているのがわかります。

スペイン空軍から借り受けた航空機はスペイン国外に出すことはできません。なにしろ現役の空軍機ですし、映画のためとはいえ、全機ドイツの国籍マークの他にナチスドイツの鉤十字が描いてあるのです。でも、ハインケルがロンドンを空襲するシーンやイギリス上空での空中戦シーンは絶対に必要です。

余談ですが、ハインケルやメッサーシュミットに描かれたドイツ軍のマーキングは、全てひとつひとつ塗装されました。シールを貼るという簡便な手段もありましたが、シールだと万が一剥がれてしまうとプロペラにからまって大事故に繋がるので手抜きはできなかったといいます。

最終的に2機のハインケルと16機のメッサーシュミットがイギリスに飛ぶことを許可され、特別な飛行許可を得てスペインからフランスを経由してイギリスまで飛んだそうです。

RAFミュージアムのJunkers Ju 87 Stukaも映画のために使用することが許可されて整備されたものの、飛行のための耐空証明取得にコストがかかりすぎることから、映画での使用は断念され、大型のラジコン模型が使われたそうです。

模型

実機の他に数多くの原寸大のモックアップ(スピットファイア、ハリケーン、メッサーシュミット)も作られました。いくつかはバイクのエンジンを積んでタキシングできるようにもしたそうです。その多くが空襲シーンで吹き飛ばされましたが、残った機体は英国内の博物館に寄贈されたようです。

さらに82機におよぶスピットファイア、ハリケーン、メッサーシュミット、ハインケルの大型ラジコン模型が作られました。空中戦で撃墜される機や海に突っ込む機のシーンで使用されました。

命がけの空撮

この映画の白眉は空撮シーン。CGならもっと迫力のある映像をつくることができたでしょうが、なんといっても当時の実機が実際に飛んで空中戦を演じ、撮影スタッフが乗った飛行機がその間を飛び回って実写している、というのがすごいです。撮影を担当したのは映画『チキ・チキ・バン・バン』の撮影スタッフ。

撮影スタッフが乗った飛行機がまたすごい。North American B-25 Mitchellというこれも第二次世界大戦で使われた爆撃機。映画出演機から見えやすいように、赤・緑・白黒の縞というド派手な塗装を施され、オーナー自らの操縦で撮影飛行したのだそうです。監督は機体上部の機銃座に陣取って指示を出し、カメラマンは機首、機尾、胴体下部の機銃座に据えた5台のカメラで撮影しました。

撮影にはさらにヘリコプターも用いられ、高度1,500mでパラシュートのハーネスで吊り下げられたカメラマンが、ホバリングしながら名シーンの数々をモノにしたそうです(静止しているので撮りやすい)。

映画では飛行機がよく写っていなければなりませんが、迷彩塗装も当時のままを再現したので、撮影時はよく見えません(当然ですね)。このため、撮影時は白い雲が背景になるように工夫したそうです。

空中戦のシ-ンでは、各機は空中戦に見えるように定められたパターン通りに飛ぶことを求められました。簡単そうに見えますが、撮影中は、撮る方も撮られる方も時速200km~300kmで飛んでおり、さらに、乱気流もあれば雲もあります。おまけに、使える空域は毎日変わり、実際の軍用機だらけの空域を縫うように飛びながらの撮影は、常に空中衝突の危険があったといいます。

空中シーンを撮影できるまでにするのがこれまた一仕事。まず1機づつ離陸させて、全機を空に上げるのに45分、さらに編隊を組むのに1時間。それから30分くらい撮影すると、早くも「もうすぐガス欠だ!」という機が出てくる始末。なにしろスピットファイアは2時間半しか飛べません。降りるにも同様の時間がかかるので、一度のフライトで1ショット取るのが精一杯だったそうです。

安全のため、空撮は晴れの日だけ。イギリスでは天候に恵まれず、南フランスに移動して空中シーンを撮りました。しかし、南フランスの大地は赤く、どうみてもイギリスの田園地帯には見えません。このため、フランスでの空撮は空をバックにしたものだけになったそうです。

最終的には、イギリス、スペイン、フランスで撮った映像を編集段階でパズルのようにつなぎ合わせたといいます。

地上撮影

空撮も命がけでしたが、地上撮影にも危険を伴うシーンがありました。英空軍飛行場が空襲されるシーンでは、メッサーシュミットが地上数メートルという高さを高速で駆け抜ける。兵士役の役者が逃げ回るすぐ側でスピットファイヤやハリケーン、そして兵舎が爆薬で吹き飛ばされる。さらに、大戦当時実際に使われていたハンガー(格納庫)を映画のために爆破することが許可されて、役者が塹壕に飛び込んだ直後に巨大なハンガーが吹き飛ぶという危険極まりないシーンがあります。

映画でもうもうと煙を上げる飛行場がDuxford飛行場。現在のDuxford Imperial War Museumsです。

廃物利用

映画では空襲でめちゃめちゃになったロンドン市街も再現されます。通常なら、ミニチュアセットを作って撮影するところですが、戦後23年という時期には空襲を受けて廃墟同然になった施設や街区がまだ残っていたそうです。解体されることが決まった造船所や再開発のために取り壊されることが決まった街区が空爆直後のように壊された上に燃やされ、ロンドン空襲のシーンで使われました。


改めて『空軍大戦略』を見て思ったこと。
これを見直してからロンドンへ行けばよかった....。後の祭りというやつです。


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